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「部下のミスは、許すべきか叱責するべきか」

更新日:2022年4月16日




 いつもお世話になっております。孫平です。



 みなさんには、部下や後輩はいるでしょうか?


 中には仕事柄いないという人もいれば、自分が一番若手という人もいるかもしれませんね。

 

 そういう場合は、取引先の人や、プライベートで関わる後輩なんかをイメージしてみると良いかと思います。




 今回は、部下や後輩が何らかのミスをしたときに、許すべきか、それとも怒るべきかという誰もが悩む問題についてみていきたいと思います。








「思いやり」は「叱責」に勝る


 先に結論になりますが、思いやりをもって部下や後輩に接する方が、より好ましい結果になることが多くの研究から明らかになっています。



 いくつか例を見てみましょう。



 

・職場でのポジティブで温かみのある人間関係の方が、給料の多さよりも、仕事への忠誠心に大きく影響する。

(イギリスで2,000人の従業員を対象に行われた研究)



・人々は、思いやりを示されると、リーダーへの信頼感を強める。

(ワシントン大学のカート・ダークスらの研究)



・共感を示してくれる人に対して、人間の脳はよりポジティブに反応する。

(ケース・ウェスタン・リザーブ大学のリチャード・ボヤツィスらによる脳神経画像の研究)



・従業員はリーダーへの信頼が強まると、パフォーマンスが向上する。

(ラ・トローブ大学のティモシー・バートラムらの研究)



・リーダーが怒りの感情をあらわにすると、部下はそのリーダーの能力を低く見る。

(ハーバード・ビジネススクールのエイミー・カディらの研究)

 



 もちろん、怒りの感情が全てダメなわけではありません。

 

 怒りは、不正に対して立ち上がるエネルギーを与えてくれたり、権威を感じさせる効果もあります。




 しかし、上司が部下に怒りの感情をあらわにすることは、先ほどの研究結果を踏まえるとあまり得策とは言えないでしょう。

 


 そもそも、上司が部下を叱責する最大の理由は、部下のパフォーマンスを改善し業績を上げていくことです。



 上司は、ミスをして叱責された部下はその後はよりよい社員に変わり成長したと、勝手に思い込んでいるのでしょうが、実際はその真逆の現象が起きている可能性が高いのです。





 脳神経画像の研究では、「人間は、恐れや不安を抱くと脅威に対する反応が起動し、認知制御に悪影響を及ぼす。その結果、生産性と創造性が低下する。」ことが分かっています。



 また、もしみなさんが上司から厳しい叱責を受けたとしたらどうでしょう。普通の人なら、その後は失敗することを恐れ、チャレンジングな仕事は避けるようになるのではないでしょうか。


 これが社会人経験の浅い若手なら尚のことだと思いますが、それは貴重な学びの機会を奪うことに他なりません。


 


 上司が部下に対して良かれと思ってしている言動が、実は部下の能力を低下させ、結果的に会社の業績に悪影響を及ぼしている可能性が高いのです。


 これは上司の存在理由に関わる問題であり、なんとしても避けなければいけない事態です。


 




 しかし私たち人間は、仏のような心を常にもてるほど強くはありません。やはり、イライラしてしまうことは誰にだってあるでしょう。


 それでは、どうしたらそんなイライラする場面でも、思いやりのある対応ができるようになるのでしょうか。








自分の感情をコントロールする方法


 思いやりのある対応をするための第一歩は、怒りの感情に飲まれることなく冷静になることです。




 スタンフォード大学の脳神経外科医であり、同大学の「思いやりと利他主義研究教育センター」のディレクターも務めるジェームズ・ドーティ博士は、感情をコントロールするための3つのステップを提唱しています。




 

①少しだけ時間をとって冷静になる


 怒りを感じた際は、一歩退いて怒りを感じている自分を観察する。イライラしている自分の感情を客観的に見ることで心理状態が変化し、より思慮深く、合理的で、分別のある対応ができるようになる。





②部下の立場に自分を置く


 怒りの感情に飲まれることなく冷静さを取り戻したら、自分がまだ新入社員だった頃や経験が浅かったときのことを思い出し、ミスをした部下は今どんな気持ちでいるのか思いを馳せてみる。

 

 人間は地位が上がったり権力をもつようになると、本来持っていた共感力が希薄になることが明らかになっている。

 

 そのためリーダーは、他者の立場に立って物事を理解すること=「視点取得」を、常に意識しなければならない。





③許す


 部下の立場に立ち共感を持てば、部下を許すことが容易になる。そしてこのような寛容な心を持つことのメリットは非常に大きい。



 ワシントン大学のペギー・ハノンらの研究によれば、許す行為は自分と相手双方の血圧を下げるという。(逆に遺恨を引きずった場合は、血圧と心拍数が上昇する。)



 また、マイアミ大学のグラコモ・ボノらの研究、およびテネシー大学のキャスリン・ローラーらの研究では、寛容な心を持つ人はストレスやネガティブな感情が大幅に減るため、幸福度と人生の満足度が高まることがわかっている。



 そして、アメリカ心理学会の報告によれば、職場での信頼、忠誠心、創造性が高く、ストレスが少なければ、従業員の満足度と生産性も高く、離職率は低い。



 これらは怒りの感情では決して手に入らない。



 リーダーが部下に対して思いやりのあるポジティブなコミュニケーションをとることによって、部下の生産性と創造性、仕事への忠誠心が高まり、顧客サービスや顧客満足度が向上し、結果として業績も向上するのである。

 



 それでもやはり、頭では分かっていても自分のイライラを抑えることは大変なことだと思います。



 だからこそ世の中のリーダーの中には、自分の感情のままに部下を叱責するという楽な選択をして、部下だけでなく自分自身も苦しめている人が存在するのです。(部下が辞めたり、業績が上がらない責任をとらされる。)





 そこでみなさんが、思いやりのあるコミュニケーションで部下や後輩たちから厚い信頼を得られれば、長い目で見れば業績は上がってくるでしょうし、周りのリーダーたちから頭一つ抜きん出たり、自分の上司だった人物の上司になる可能性もあるでしょう。




 だから部下や後輩には、怒るよりも共感する方が、おそらく得ですよ。







【参考文献】

ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『共感力』2018年(ダイヤモンド社)





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