top of page

「腸の科学② 子どもとマイクロバイオータ後半」

更新日:2022年4月11日




 いつもお世話になっております。孫平です。

 前回の、子どもとマイクロバイオータの後半になります。


 それではさっそく参りましょう。






母乳とマイクロバイオータ


 結論から言うと、赤ちゃんには人工の粉ミルクよりも、少しでもいいからできるだけ母乳を飲ませた方が良い、ということになります。



 

 母乳には、ヒトミルクオリゴ糖という、きわめて複雑な化学構造をもつ炭水化物が含まれています。


 しかし、このヒトミルクオリゴ糖は人には消化できないのです。

 

 

 では、なぜそんな成分が母乳に含まれているのかというと、これは赤ちゃんではなくマイクロバイオータの食べ物になるからです。


 実際に、健康な赤ちゃんの腸内には、ヒトミルクオリゴ糖の恩恵をもっとも受ける、ビフィドバクテリウム属菌が一番よく見られることが分かっています。




 また、別の細菌でバクテロイデス属菌の定着も促すことが分かっています。

 この菌は、植物組織を食べて生きるという能力をもつ菌です。


 この時期の赤ちゃんはまだ固形物を食べることができませんが、バクテロイデス属菌を棲まわせておくことで、固形物を食べるための準備を整えていると考えられています。




 つまり母乳は、子どもにとってもっとも有用な細菌群が腸内に棲みつくように調整しているのです。


 固形物を初めて食べた子どものマイクロバイオータは、なんとたった1日で種類も数も激増します。

 しかし、その固形物を餌にできる細菌が母乳によって定着していないと、固形物を食べ始めてからの細菌の多様性は限られてしまう可能性があります。




 

 母乳に含まれるヒトミルクオリゴ糖は、ヒトに固有の成分であり、他の動物から抽出することも化学的に作り出すことも今のところはできません。


 高額な粉ミルクでも、母乳がマイクロバイオータに与える影響を再現できているという証拠は、今のところありません。

 

 ここ50年ほどの間で開発されてきた人工の粉ミルクでは、約20万年の進化の結晶である母乳の力には遠く及ばないのです。




 

 断乳を早い時期からしているお母さんもいるかと思いますが、世界保健機関(WHO)も少なくとも2歳までは母乳を与えるのが望ましいとしているように、子どものマイクロバイオータのことを考えれば、あまり早すぎる断乳はよろしくないと言えそうです。


 周りの声や、ママ友たちの様子は気にせず、子どもには自然と母乳を飲まなくなるまで与えてあげればいいのではないかと思います。親が何もしなくても必ず飲まなくなる日は来ますから。




 また様々な理由から、母乳がなかなか与えられないというお母さんもいるかと思います。そのような方も無理のない範囲で、ほんの少しでもいいから母乳を与えてあげるよう意識してみて下さい。

 大変かもしれませんが、わずかな母乳でも、我が子がより健康に育つ可能性は確実に高まります。






疳の虫とマイクロバイオータ


 子どもが生まれたあと、親を悩ませる種の一つが、赤ちゃんが泣き叫ぶ疳の虫でしょう。

 経験者なら誰もが分かるように、何をしても泣き止まない赤ちゃんをなんとかして泣き止ませようとするのは、親にとって相当なストレスです。




 実は、腸内マイクロバイオータが疳の虫と関係があることを示す科学的証拠は数多くあるのです。




 ウィレム・デ・ヴォス率いるオランダの科学者グループが行った研究では、疳の虫をもつ赤ちゃんのマイクロバイオータは、そうでない赤ちゃんよりも、多様性が大幅に低いことが分かりました。


 

 疳の虫をもつ赤ちゃんのマイクロバイオータには、プロテアバクテリア門の細菌が多い反面、ビフィドバクテリウム属やラクトバチルス属の細菌が少なかったのです。



 このようなマイクロバイオータは、帝王切開で生まれた赤ちゃんや、粉ミルクで育てられた赤ちゃんのマイクロバイオータとよく似ているのです。




 赤ちゃんの疳の虫を治してあげたいのであれば、まずは母乳をあげる頻度を増やすのが良いでしょう。


 また、乳児用の有用菌の使用について、マイクロバイオータに理解のある医師に相談してみるのも手です。






抗生物質とマイクロバイオータ


 先進国では、子どもに抗生物質を投与するのは当たり前のことになっています。


 ご存知の通り、抗生物質は細菌を死滅させるものです。しかしその威力は、悪い細菌だけでなく良い細菌にも発揮します。


 そして子どもの腸内マイクロバイオータも、この威力の巻き添えを食らい、大量に抹殺されます。




 

 実際に、乳児に対する抗生物質の使用は、喘息、湿疹、肥満など多くの疾患の罹患率の高さと関連していることが分かっています。



 またイギリスで11,000人以上の乳児を対象にして行われた研究調査では、抗生物質を投与された乳児は、そうでない乳児に比べて、肥満であることが明らかになっています。

 


 しかし今の段階では、抗生物質の使用とその後のマイクロバイオータへの影響が、これらの疾患となぜ関係しているのか、その理由は分かっていません。






【参考文献】

ジャスティン・ソネンバーグ&エリカ・ソネンバーグ『腸科学』2018年(ハヤカワNF文庫)







bottom of page