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「目標値に幅をもたせることの効果」

更新日:2022年4月11日




 いつもお世話になっております。孫平です。


 皆さんは、「毎月1万円貯金しよう」とか「減量のために毎日30分運動しよう」といった具体的な目標値を設定して、挫折したことはありませんか。(なにを隠そう私はその一人です。)



 

 仕事でもプライベートでも、そのように具体的な目標数値を設定して行動していく方法は、誰もが行なっている常識的なものです。


 こうした目標の立て方は、新しいことを始めるときには有効であることが分かっています。




 しかし私たちは、自分の人生にとって望ましいと思う行動は継続して取り組んでいきたいはずです。


 そのため、長期にわたって継続的に行動するための「やる気」を、持続的に与えてくれる目標設定の仕方が重要になってきます。





 その方法の一つが、「目標値に幅をもたせる」というものです。









目標値に幅をもたせることの効果


 まずは、マーケティング学の教授であるM・スコットとS・ナリウスが、ダイエットクラブを舞台にした研究を見てみましょう。




 

 10週間のダイエットプログラムに参加した会員たちを2つのグループに分け、期間中の減量目標を決めてもらった。


 一つのグループは、例えば「1週間に1kg痩せる」といった、きっちりとした目標値を設定した。


 もう一つのグループは、例えば「1週間に0.5kg〜1.5kgくらい痩せる」といった、幅のある目標値を設定した。




 結果は、体重が落ちた量については両者にほとんど差がなかった。


 しかし、「もう一度、10週間のダイエットプログラムに参加するか」と聞かれたとき、きっちりとした目標値を設定したグループの参加者は50%が「参加する」と答え、幅のある目標値を設定したグループの参加者は80%が「参加する」と答えた。


 


 このような違いは、どうして生まれるのでしょうか。




 それは、目標値に幅があると、「やりがい」と「到達可能性」を感じられるからです。


 これまでの様々な研究から、目標に向かっている人に重要な影響を与える要素として、この「やりがい」と「到達可能性」の2つが示されています。



 この場合、特に「到達可能性」が強く感じられるのではないかと思われます。




 到達可能性とは要するに、目標を達成できそうだという現実的な可能性のことです。


 

 先ほどのダイエットプログラムの例で言えば、「1週間に1kg痩せる」という目標を設定すると、1kg痩せられなかった場合「目標が達成できなかったから、もうどうでもいいや」と思って、行動を止めてしまう可能性が高くなります。


 冷静に考えれば、たとえ目標数値まで痩せられなかったとしても、プログラムを継続していれば確実に前の自分よりも痩せられるはずですし、運動をすることによる他のメリットも享受できるでしょう。


 しかし、きっちりとした目標値を設定していたがために、それが達成できないと「失敗した」感覚になってしまい、再び行動するためのやる気がなくなってしまうのです。





 一方、「1週間に0.5kg〜1.5kgくらい痩せる」という目標設定なら、数値に幅がある分だけ、目標到達可能性つまり達成可能性が広がります。

 当然、そのゾーンが広ければ、目標達成できずに失敗したという感覚に陥る可能性も低くなります。


 この「なんとなく達成できそうだ」という感覚が、行動するためのやる気を持続的に与えてくれるのです。




 

 「健康的な生活を送る」というような、一生続けていく方が望ましい目標に関する、具体的な行動を継続的に行うには、目標値にあえて幅をもたせる方が良いのです。


 そんな曖昧な目標じゃダメだろ、と思ったとしても、長期的に見れば曖昧な目標の方が挫折せずに行動を継続していけるのです。

 完璧な目標を設定しても、それを確実に実行できなければ、まさに絵に描いた餅です。

 

 それならば、多少ルーズな目標でも、着実に行動に移せる方がはるかに価値があるのです。

 







日常生活に活かす


 ここまで見てきた、「目標値に幅をもたせる」方法は、日常生活のさまざまな場面で利用できるでしょう。




例えば仕事の場面なら、


・目標売上を100万円ではなく、80万〜120万円


・新規件数を5件ではなく、4〜6件


・訪問件数を10件ではなく、8〜12件


・1時間で終わらせるではなく、50分〜70分で終わらせる


などなど。






家族や自分自身に語りかける場面なら、


・22時までに寝るではなく、21時30分〜22時30分ぐらいまでには寝る


・ゲームは1日1時間までではなく、1日50分〜70分ぐらい


・テストで80点とるではなく、70点〜90点とれたらオッケー


・毎月貯金は1万円ではなく、5千円〜1万5千円


・お酒は1日2杯までではなく、1杯〜3杯まで



などなど





 とにかく考えれば、無限に使える場面はありそうです。



 自分自身に使えるのはもちろんですが、部下や生徒や子どもなど、誰かに目標を与える必要がある人にとっては、目標値に幅をもたせる工夫をすることで、自分もその人も望んだ通りの結果を得やすくなると思います。



 今まできっちりとした目標や指示を与えていた人は、少しその内容を見直してみてもいいかもしれません。




 皆さんも、自分の生活の中で応用できそうなことを考えて、是非実践してみて下さい。




 それではまたお会いしましょう。





【参考文献】

スティーブ・J・マーティン、ノア・J・ゴールドスタイン、ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器 戦略編』2016年(誠信書房)




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