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「心理学用語大全 アンダーマイニング効果」

更新日:2022年4月11日




 いつもお世話になっております。孫平です。


 今回は、「アンダーマイニング効果」という心理学用語についての解説です。




 それでは参りましょう。






アンダーマイニング効果とは?


 まず、アンダーマイニングという言葉には、「土台を壊す」とか「弱体化させる」という意味があります。



 結論を簡単に言うと、アンダーマイニング効果とは、



「自分が純粋に好きでしていたことに、お金とかご褒美とか賞賛といった報酬が与えられると、報酬なしではやる気が出なくなってしまうこと。」



といった感じになります。





 

 

 例えば孫平は読書が好きですが、その読書という行為に、一冊読んだら○○円とか、500ページ超えの分厚い本ならプラス○○円といった報酬が本屋から与えられるとしましょう。


 当然、「本を読んでお金も貰えるなんて最高じゃん!」となります。


 しかしある日、本屋からそのキャンペーンの終了を告げられます。


 すると、「えー、終わっちゃうの?お金も貰えて良かったのになぁ。」となります。


 つまり孫平の読書の動機は、報酬を貰う前は「ただ純粋に読書が楽しいから・好きだから読書をする」という内発的動機づけによるものでしたが、報酬を貰い始めてからは「お金を貰いたいから読書をする」という外発的動機づけによるものに変わってしまったのです。


 

 孫平はその後も変わらず読書をすると思いますが、貰えていたはずの報酬が貰えなくなり、純粋に「読書が楽しい!ワクワクする!」という気持ちに戻るには相当時間がかかると思います。

(外発的動機づけに慣れてしまった結果、内発的動機づけが弱体化し、やる気が低下してしまったからです。)







「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」


 ここで、先ほどの例え話で出てきた「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」について整理しておきましょう。





外発的動機づけ


 まず外発的動機づけですが、これはアメリカの心理学者B・F・スキナー(1904〜1990年)が提唱したもので、「オペラント条件づけ」とも呼ばれています。


 簡単に言うと、人の自発的な行動は、性格などの内的要因ではなく、報酬や懲罰などの外的要因が引き起こす、という考えです。



 

 例えば、親切をする→報酬を与える(褒める)→もっと親切をするようになる。(正の強化)とか、


 意地悪をする→懲罰を与える(叱る)→意地悪をしなくなる。(負の強化)といった具合です。






内発的動機づけ


 一方、内発的動機づけは、アメリカの心理学者エドワード・L・デシ(1942年〜)が、『内発的動機づけ-実験社会心理学的アプローチ』で提唱したものです。



 これは、好奇心などによって行動そのものが目的になったとき、たとえ無報酬であっても、人は自発的な行動を起こす、といった考えです。




 例えば、勉強することそれ自体が楽しければ、親から褒められなくても、テストで良い点をとれなくても勉強はできるのです。結果がどうであれ、勉強そのものが目的となっているからです。(そういう人になりたいものですが…。)







日常生活に活かす


 さて、ここまで述べてきたことは、私たちの日常生活にどのように活かせるでしょうか。





子育ての場合


 子どもと接するときには、内発的動機づけによる行動を増やした方が良いでしょう。


 なぜなら、外発的動機づけによる行動だと報酬ありきで動いてしまうため、アンダーマイニング効果が発動しやすくなり、結果として何かにとことん打ち込んだり、自主性を育むことが難しくなるからです。




 ポイントとしては、子どもが自ら何かに集中しているときは、とにかくそっと見守り、決してその行動を褒めたりご褒美をあげたりしないことです。


 可愛い我が子ですから褒めてあげたい気持ちもよく分かりますが、そこを親自身が我慢できないと、せっかく子ども自身の内側から出てきた情熱の炎を消してしまうことになります。



 少し離れて子どもを観察してみると、親が思っているより子どもは何かに没頭していることが多いものです。


 子どもが自らすすんでやり始めたことは、飽きるまでやらせてあげましょう。そこには、「親がやらせたこと」の何倍もの学びと価値があるはずです。







仕事の場合


 社会人であればお分かりの通り、会社からもらう給料やボーナスは、非常に強力なモチベーションになります。


 この給料やボーナスといったものは、外発的動機づけになります。




 従業員なら自分の人生のために、経営者なら従業員の仕事への満足度や会社の維持発展のためにも、やはり目指すべきは内発的動機づけによって仕事をする(してもらう)ことです。



 

 例えば、前回はボーナスを50万円もらいました。しかし、今回は5万円でした。


 この場合、皆さんならどう思いますか?一気に仕事のモチベーションが下がりませんか。

 

 外発的動機づけで仕事をしていると、こうした気分のアップダウンがあり、働いている本人は常に不安や焦りがあるし、経営者としても生産性にムラがある従業員を雇うことにはリスクがつきまとうはずです。




 なかなか難しい問題ですが、やはり仕事そのものが「楽しい」「やりがいがある」と思えるかどうかが非常に重要になってきます。(内発的動機づけ)


 


 ここでは詳細は話しませんが、仕事のやりがいを高める方法として、「ジョブクラフティング」というものがあります。


 ジョブクラフティングとは簡単に言うと、「自分の仕事を価値観に基づいて捉え直す手法」のことです。



 これでもまだ分かりにくいですよね。



 例えば、病気や怪我で入院した人のリハビリを行う理学療法士がいるとします。彼らに「あなたはどんな仕事をしているの?」と質問したとします。

 

 ある人は、「病院に勤務して月収○○円を得ています。」と答え、またある人は、「患者さんのリハビリをして在宅復帰を支援しています。」と答えました。


 そしてまたある人は、「患者さんの第二の人生に希望を与えています。」と答えました。



 どの考えをもっている理学療法士が、自分の仕事に誇りをもち、やりがいを感じているかは明白でしょう。


 このように、給料とか仕事内容ではなく、価値観に基づいて仕事を捉えることで、結果的に外発的動機から距離を置くことができます。






使い分ける


 ここまでの内容だと、内発的動機づけだけが優れているように思えます。


 しかし、外発的動機づけが効果的なシーンもあるのです。




 すでにお分かりのように、外発的動機づけには持続力がありません。その代わり、一瞬の爆発力はあります。

 

 この特徴を活かせないでしょうか。




 例えば、会社の決算月で、あともう少しで全体の売上目標が達成できるという状況で、新規契約○○件、売上○○円をとってきた営業マンには○○円の臨時ボーナスを支給します!


というときなどには使えるでしょう。(押し売りをして、会社の評判を落とす可能性もありますが)




 このあたりは利害関係のある大人の世界、しかも限定された短い期間だからこそ通用するものです。


 親と子どもの関係性はこれとは全く違うものですので、やはり子どもには報酬が目的となる外発的動機づけはできるだけ行わない方が良いでしょう。







 今回はアンダーマイニング効果から始まり、その根底にある内発的動機づけと外発的動機づけについて見てきました。


 基本は内発的動機づけによるモチベーションをベースにして、状況に合わせて外発的動機づけも上手に活用していくのが良いでしょう。





 それではまたお会いしましょう。





【参考文献】

齊藤勇監修、田中正人編著『図解 心理学用語大全』誠文堂新光社(2020年)

佐藤雅彦、菅俊一『ヘンテコノミクス』マガジンハウス(2017年)





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