いつもお世話になっております。孫平です。
前回までは、なぜ人に何かを頼むのが難しいのか、頼み事をするときに感じる脅威や、私たち自身の思い込みについて解説してきました。
今回は、人から上手に助けてもらうための具体的な方法についてみていきたいと思います。
これについては、コロンビア大学ビジネススクール・モチベーションサイエンスセンター副所長で社会心理学者の、ハイディ・グラント・ハルバーソンが、「助けを得るための4つのステップ」としてまとめています。
それではそれぞれ見ていきましょう。
ステップ①、相手に気づかせる
私たちは基本的に自分のことばかり考えていて、他人にはあまり注意を払っていないものです。
人は、目の前のことに集中しているときや、視覚的・聴覚的な負荷が大きいときに、「不注意による見落とし」が起きやすくなります。
この現象をよく表しているものに、心理学者のダニエル・シモンズとクリストファー・チャブリスが行った「見えないゴリラ」という実験があります。
興味のある方は検索してみて下さい。
また外部環境による影響だけでなく、不安や憂うつ、欲求不満といったネガティブな感情に陥った人は、周囲に注意を向けることが難しくなります。
このように、ほとんどの人は自分のことで頭がいっぱいです。
みなさんは、そのような状況の人たちに助けを求めなければいけないわけですから、まず最初にするべきことは、
「私、困ってるんです!」とアピールして、「あっ、あそこに困っている人がいる!」と相手に気づかせることになります。
ステップ②、相手に確信させる
私たちが助けを求めていることが、相手に気づかれにくい理由には、相手側にある「大衆抑制」という、人前で恥をかきたくないという心理も影響しています。
この心理は、大きく2つあります。
1つ目は、「相手が困っていないのに、助けが必要だと誤解して恥をかいてしまうかもしれない」という不安です。
このような状況で、助けるか助けないかを判断する基準となるのは、「周りの人たちの反応」です。
つまり、周りの人たちが特に何も反応していなければ、助ける必要はないと判断されてしまうのです。
本当は周囲の助けが必要であってもです。
2つ目は、「求められていないのに助けようとして嫌がられるのではないか」という不安です。
相手が、自力で問題を解決しようとしているのかもしれないし、そもそも相手のプライバシーに首を突っ込むのはどうか、などと考えることで、助けることを躊躇してしまうこともあります。
相手が抱えているこれら2つの不安は、本当は助けてもらいたい私たちにとっては、大きな障壁になります。
しかし、この問題を解決する方法は至ってシンプルです。
それは、「相手に直接助けを求める」ことです。
自分が「助けて欲しいオーラ」を出していれば、誰かが気づいて助けてくれるだろうなどと、期待してはいけません。
残念ながらそれは幻想に過ぎません。なぜなら他人は、「普通助けてほしい人は、自分からそれを伝えてくるはずだ」と考えているからです。
そのため、誰かに助けて欲しければ、その人に直接助けを求めること以外に、確実な方法はないのです。
ステップ③、助ける側に明確な責任感を持たせる
「たくさんの人がいる大通りで、1人の高齢者が何かに困っている」
「人通りのない田舎道で、1人の高齢者が何かに困っている」
みなさんがそれぞれの状況に出くわしたとしたら、どのような行動をとるでしょうか。
プリンストン大学の心理学者、ラタネとダーリーは、このような2つの状況の違いを「責任の分散」と呼びました。
つまり、周りに困っている誰かを助けられる人が多くなるほど、それぞれが抱く「自分が助けるべきだ」という責任感が薄れてしまうのです。
そのため、助けて欲しい私たちは、その相手に、「他の誰でもない、あなたに助けてもらいたいのです」というメッセージを伝えなければいけないのです。
それが、責任の分散を予防し、相手が「みなさんを助けるという責任感」を持つキッカケになるのです。
ステップ④、助ける側が、助けを提供できる状態をつくる
みなさんもそうであるように、みなさんが助けを求める人も、毎日とても忙しい日々を送っています。
忙しい状態の人に助けを求めても、躊躇されたり、望んでいたレベルの助けを得られなかったり、あるいは断られる可能性もあるでしょう。
では、そのような忙しい人から適切な助けを得るにはどうしたらいいのでしょうか。
ここでは、3つのポイントが挙げられます。
①「自分がどんな助けを求めているのか、どれくらいの助けが必要なのかを、はっきり、詳しく説明する」
②「相手の時間の妨げにならないよう、妥当な量の助けを求める」
③「望んでいたレベルの助けが得られなくても、相手の助けを受け入れる」
さて、ここまでの4つのステップをおさらいしてみましょう。
・助けてもらいたいことを相手にはっきりと伝え、みなさんが助けを求めていることに気づかせ、確信してもらう。
・不特定多数ではなく、その相手に直接依頼して、「自分がこの人を助けるんだ」という責任感を持たせる。
・相手が忙しいことに十分留意し、妥当な量のサポートを明確に依頼する。
今回はここまでです。
次回は、「やってはいけない頼み方」について解説していきたいと思います。
それではまたお会いしましょう。
【参考文献】
ハイディ・グラント・ハルバーソン『人に頼む技術』2019年(徳間書店)
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