いつもお世話になっております。孫平です。
さて、頼み方の極意②ですが、今回は、私たちが勝手に思い込んでしまっている「頼んでもどうせ断られるだろう…」「頼み事をしたら相手に迷惑をかけてしまうかもしれない…」といったことが、実は全くの逆であるということをお話したいと思います。
そんな間違った思い込みから解放されることで、今までよりも頼み事をするハードルは格段に下がってきます。
それでは参りましょう。
頼み事の成功確率を過小評価していないか?
私たちはとにかく、頼み事をするときに相手がそれを受け入れてくれるかどうか、不安になります。
コーネル大学の組織行動学教授のバネッサ・ボーンズが行った実験を見てみましょう。
コロンビア大学の学生が被験者となり、キャンパス内の見知らぬ人に、5分〜10分かかるアンケート調査への記入を依頼するよう指示した。
学生たちに事前に、「5人にアンケートを記入してもらうまでに何人に声をかけなければいけないと思うか?」と尋ねたところ、その回答は平均で20人であった。
しかし実際の結果は、平均で10人であった。
その他にも、「携帯電話を少しだけ貸してもらう」「キャンパス内のジムまで案内してもらう」といった頼み事で同じ実験を行ったが、どちらの場合も被験者は、頼み事が成功する確率を低く見積もっていた。
このような研究結果は数多くみられ、ボーンズが頼み事に関する複数の研究を分析したところ、我々は頼み事の成功確率を平均で48%も低く見積もっていることが明らかになったのです。
要するに、私たちが思っているより約2倍、頼み事は成功するのです。
頼まれた側は基本的に断りにくい
例えば、みなさんは最近誰かから頼み事をされましたか?
もしあれば、そのときの気持ちを思い返してみて下さい。
おそらく、あまり気乗りしないことでも「なんとなく断りにくくて」頼み事を受け入れたのではないでしょうか。
この「なんとなく断りにくい」要因は、普通の人なら誰でももっている、「社会的ルールは守らなければいけない」という感覚によるものだと考えられています。
つまり、「困っている人を助けてあげるのが社会的ルール」であり、「困っている人を助けないのは社会的ルールを違反する」ことになるため、私たちはルールを違反し社会から爪弾きされないために、人の頼み事は余程のことでない限り断れないのです。
頼む側は、頼まれる側のこのような心理に思いを馳せることがないため、どうせ頼んでも無駄だろうなどと成功確率を過小評価してしまうのです。自分が頼まれた側だと、だいたいのことは受け入れるにも関わらずです。
スティーブ・ジョブズが、1994年のインタビューで語った話を引用してみましょう。
僕は日常的に、助けを求めれば人はそれに応えてくれる、ということを実感している。この真実に気づいている人は少ない。なぜなら、めったに誰かに助けを求めようとしないからだ。誰かに何かをお願いしても、それを無下に断られることなんてめったにない。
(中略)
僕が頼み事をしたときに、「嫌だね」といって電話を切る人はいなかった。その相手から同じように頼み事をされれば、僕も力を貸す。相手に恩義を返したいと思うからだ。でも、電話をかけて誰かに助けを求めようとする人は少ない。それが、何かを成し遂げる人と、夢を見るだけで終わる人との差になることもあるのではないかと思う。
一度頼み事を断った相手は、次回はさらに断りづらくなる
みなさんも、行きたくない会社の飲み会をなんとか断ったが、次に誘われたときには、前回断った手前なんだか断りづらくなって渋々参加した、なんて経験はあるのではないでしょうか。
頼み事を2回続けて断ることが、どれほど気まずくエネルギーを消耗することか、みなさんもよくお分かりだと思います。
2回目の断り文句は、1回目とはまた違った正当な理由を見つけなければならず、これほど面倒で疲れることはありません。
また、「誰かにお願いされたときは、協力的であるべき」という暗黙の社会的ルールの上に生きている私たちは、2回続けて断ることに非常に強い抵抗や罪悪感を覚えます。
そのため多くの研究結果からも、「1回目の頼み事を断った人は、2回目の頼み事に応じる可能性が高くなる」ことが明らかになっています。
つまり頼む側からしてみると、1回断られた人には再度頼み事はしにくいものですが、「1回断られているからこそ、次はこちらのお願いを聞いてくれる可能性が高くなっている」ということを覚えておくべきなのです。
一度頼み事を受け入れた相手も、次回は断りづらくなる
では、一度頼み事を聞いた人に、次の依頼をするとどうなるかというと、「次も頼み事を受け入れてくれやすい」というのが答えです。
頼み事を聞いてくれる人は優しい人なんだから、次の頼み事も聞いてくれるのは当たり前だろ、というのもありそうですが、ここでは人がもっている「一貫性」と「脳の認知的不協和の解消」が大きく影響しているのです。
私たちには、一度自分がとった行動や考えを一貫して守ろうとする習性があります。
なぜなら、一貫性を欠いていると、過去の自分を否定することになり、心理的な苦痛が生じるからです。
例えば、ある頼み事を聞いた人が、次も頼み事をされたとします。
その人には、頼み事を「断る」と「受け入れる」という選択肢があります。
しかしここで「断る」という選択をした場合、その人の心理にはどのような影響が出るでしょう。
前回は相手の頼み事を「受け入れた」のに、今回は「断った」ら、自分の行動に矛盾が生じます。そしてこのときに不快感を感じるのです。(認知的不協和)
この矛盾を解消し、不快感から逃れるには、
①頼み事を断って、前回人助けをした親切な自分を破棄する
②今回も頼み事を受け入れて、親切な自分を保持する
のどちらかを選ぶことになります。
もうお分かりいただけたかと思いますが、たいていの人は「親切な自分」という自己認識を保ちたいため②(認知的不協和の解消)を選びます。
こういった流れから、「一度頼み事を受け入れた人は、次も頼み事を受け入れてくれる可能性が高い」と言えるのです。
まずは頼み事に関する誤解から解放されましょう。
私たちが思っているよりも、人は頼み事を受け入れてくれるものなのです。
次回ももう少し、頼み事に関する誤解について触れてみたいと思います。
【参考文献】
ハイディ・グラント・ハルバーソン『人に頼む技術』2019年(徳間書店)
Comments