お世話になります。孫平です。
先日、糸魚川市にある「谷村美術館・玉翠園」に行ってきました。
こちらの美術館は、木彫芸術家の澤田政廣氏の仏像作品が、建築家の村野藤吾氏が設計した建物に展示されています。玉翠園は造園家の中根金作氏によって手がけられ、谷村美術館が開館する2年前の1981年に完成しています。
細かいいきさつは忘れましたが、この方たちは、糸魚川市を代表する建設会社である谷村建設の谷村繁雄社長との関係や相馬御風との関係など、糸魚川市に何度か足を運んだことがあったことなどから、この美術館がつくられたそうです。
今回は年間パスポートを持っている妻に同行して、約20分ほどの学芸員さんによるガイドの元、鑑賞してきました。(その日はちょうど、庭園の池の水を抜いて清掃する日でした。これはこれで珍しいところを見られました。)
玉翠園は写真撮影OKですが、美術館内では写真撮影ができないので写真はありません。興味のある方は、是非足を運んでみて下さい。
私が学芸員さんの話を聞いて、印象に残っているポイントを、個人的な備忘録としてまとめておきます。
・入口入ってすぐの左側に、大きな岩がある。美術館側見ると、仏様のように見え、庭園側から見るとゴリラなどまた違ったものに見える。早川から運んできた岩とのこと。
・美術館に向かう雁木通りみたいな通路は、壁がザラザラしている。そのため、鑑賞者が壁に接近して服や肌を傷めないよう、壁側の床をわざとカーブさせ、壁に近付けないような設計となっている。
・雁木通りみたいな通路の屋根を支える柱の土台には天然石が使用されている。また柱は、行き側に1本、帰り側に1本、形の違うものが使用されている。これは、村野氏が単調を嫌ったためとのこと。
・中央の白い砂利と美術館の形は、シルクロードの敦煌石窟をイメージしている。砂利が運ばれた際は少し赤みがかっていたため、村野氏の指示により、全て洗ってから敷き詰められた。また美術館の外壁は、風雨により石灰が溶け出し劣化しているように見えるが、それも村野氏の計算によるもので、「この建物は5年経ってやっと完成する。」という言葉を残していたという。村野氏は美術館完成の翌年に亡くなっているため、彼の死後も建設は進んでいたと言える。
・美術館内部の仏像作品も、敦煌の石窟仏をイメージして展示されている。自然光を取り込んでおり、季節や陽の当たる時間帯によって仏像の印象が変わる。また希望を与えるような仏像には朝日が当たるように、少し悲しげな仏像には夕日が当たるなど、作品によって陽の取り込み方が緻密に計算されている。
・館内の仏像は、通路に沿っていくと基本的には一つしか見えないようになっている。その作品の鑑賞が終わり次の仏像がある部屋に向かうには、視界に入ってきた仏像のところに向かえばいいという不思議な構造になっている。次に向かうべき仏像も必ず一つしか見えず、まるで仏様に導かれているような感覚になる。
・曼珠沙華という作品はライトによる影が後ろの壁に映るのだが、下の影は苦しみや悲しみにうなだれる姿、上の影は喜ぶ姿に見える。人間の感情の多さや複雑さ、欲深さなどを表現している。
・天彦という作品は、館内で唯一の仏像ではなく人間の作品である。これは、空襲で死んだ我が子を抱えた母が、子どもとともに天に導かれていくというもの。母親の足元は地上から離れており、浮いている印象を与える。ライトに照らされ後ろの壁に映った2つの影が、2人を優しく包み天に上げていくように見える。
・弥勒菩薩という作品は、日光の赤スギ?だったかの、ものすごく硬くて削るのが至難の業と言われている木を使用しており、この作品は神の領域と言われている。
・聖観音という作品の部屋の手前には、2体の小さな仏像が左右に並んでいる。この2体の仏像は、しゃがまなければ顔を拝むことができない。これは、私たちは常に謙虚でいなければいけないというメッセージであるという。
・全ての仏像を見終わった出口付近から、北側に外に出られる場所があるが、そこから見える建物の外観がモアイ像に見える。これは自然光を取り入れるときにできた形で全くの偶然であるとのこと。
・帰り道の館内を出てすぐ左側に、谷村繁雄氏が唯一設計を任された小庭がある。
・玉翠園の方にたどり着き、庭を眺めながら一休みする。
とまあ、こんな感じでしょうか。
1人で行くとあまりにも神聖な空間過ぎて、ちょっと怖くなってしまうかもしれない、そんな雰囲気もありました。
アートは幸福度を上げてくれる
というわけで、今回もそれに関連した研究を。
シェフィールド大学などが、アートと幸福の関係を調べた研究(R)によると、
・あらゆるタイプのアートを鑑賞すると、人生の満足度や人生に意味を見出すレベルが上昇した。
・その中でも特に、絵画や写真といったアートを鑑賞したときの幸福度の上昇が大きかった。
・アートの鑑賞時間の長さによる、幸福度の差はみられなかった。
・映画や音楽鑑賞やスポーツ観戦には、幸福度との有意な相関はみられなかった。
・鑑賞型のアートイベントの方が、参加型のアートイベントよりも、幸福度の上昇が大きかった。
・アートの鑑賞頻度が多いと、それによる幸福度は、結婚・雇用・教育による幸福度を上回る。
とのこと。
アートは寿命を延ばしてくれる
また、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンが、6,710人の高齢者を約14年に渡って調査した研究(R)によると、
・美術館やコンサートへ年に1回か2回行く人は、年に一度も行かない人に比べて、死亡率が14%低い。
・数ヶ月に1回以上行く人は、一度も行かない人に比べて、死亡率が31%低い。
・この研究では、調査対象者の経済状況、健康レベルをコントロールし、純粋にアートと寿命だけの関係を調査した。
とのこと。
アートを鑑賞すればするほど幸福度は上昇することを考えると、それによって精神的・身体的なストレスが軽減し、寿命を延ばしてくれるのかもしれません。
また、「IQが高い人は寿命が長い」というのはこれまでの多くの研究からも立証されているのですが、「好奇心が高い人はIQが高い」ということも分かっています。
だからといって、「好奇心が高い人は寿命が長い」とは言えませんが、その可能性もあるのかもしれません。
私はかなりインドアなので、美術館に行くのもかなりのエネルギーを必要とするのですが、半年に1回ぐらいは意識して行ってみようかと思います。
慣れないところに1人で行くのもけっこう勇気がいるので、アート好きの友人がいれば案内してもらうのもいいかもしれません。
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