いつもお世話になっております。孫平です。
今回は、日本人ならよく耳にする格言?の「終わり良ければ全て良し」は、果たして本当にそうなのかを、科学的にみていきたいと思います。
まずは、プリンストン大学の心理学者ダニエル・カーネマンと、トロント大学医学部のドナルド・リーデルメイヤーらが行った実験をご紹介したいと思います。
私たちが優先するのは、「実際の経験」か、それとも「経験の記憶」か
実験は、結腸鏡検査を受ける患者682人を2つのグループに分けて行われました。
①通常の結腸鏡検査を受けるグループ
②通常の結腸鏡検査を受けた後に、結腸鏡の先端を数分間だけ直腸の中に残しておくグループ
検査後に、両グループにこの検査の苦痛について評価してもらいました。
ポイントは、②のグループは医学的には不要なものを付け加えたが、その最後の数分間は、通常の検査よりも不快感が少ないという点です。
実験の結果はどうなったかというと、最後は不快感が少なかったがトータルの検査時間が長い(不快な時間の長い)はずの②のグループの方が、①のグループよりも検査の苦痛度が10%低く、その後の5年間も結腸鏡検査を受けてもいいと答えた人の割合が高かったのです。
別の例を出してみましょう。
みなさんが車を運転中、渋滞にはまり、目的地まで到着するのに30分かかったとします。次のどちらの状況によりイライラしますか?
①最初の20分はのろのろ進んでいたが、最後の10分はスムーズに進んだ。
②最初の20分はスムーズに進んでいたが、最後の10分は人が歩くのより遅いスピードになった。
さて、いかがでしたでしょうか。
おそらくほとんどの人が、②の方がイライラすると感じるのではないでしょうか。
最初の実験からも分かる通り、私たちは、「その出来事の苦痛(または快楽)の総量」ではなく、「その出来事の中の最後や最も強烈だった苦痛(または快楽)」をもとに評価しているようなのです。
ピーク・エンドの法則
心理学者のダニエル・カーネマンは、人間のこのような非合理的な反応を、「ピーク・エンドの法則」として1999年に発表しました。
これはつまり、
「あらゆる経験の快苦は、ほぼ完全にピーク時と終了時の快苦の度合いで決まる」
ということです。
「終わり良ければ全て良し」という言葉は、どうやら科学的にも正しいようです。
また、私たちが経験したことの記憶は必ずしも事実に基づいているわけではなく、私たちの主観によって捏造されていることが多いとも言えそうです。
仕事での客や取引先との商談・社内でのコミュニケーションや、プライベートでの彼氏彼女とのデート・夫婦や家族とのコミュニケーションや、自分自身が何かを経験するときなどは、
「相手や自分にとって一番良いことを、一番最後にもってくる」
ようにすれば、それまでの内容がたとえイマイチだったとしても、相手や自分に満足してもらえる可能性が高くなるはずです。
この「ピーク・エンドの法則」は、悪い方向にも働くわけですから、例えば絶交したいと思っている人がいれば、
「相手にとって一番嫌なことを、一番最後にもってくる」
ようにすれば、絶交できる可能性は高くなるでしょう。
その後のことは自己責任になりますが。
「ピーク・エンドの法則」は、少し意識していれば日常生活にもすぐに取り入れられると思いますし、即効性もあるので、是非今日から試してみて下さい。
それではまたお会いしましょう。
【参考文献】
ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』2014年(早川書房)
マッテオ・モッテルリーニ『世界は感情で動く』2009年(紀伊國屋書店)
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