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「男女の言語スタイル」

更新日:2022年4月11日




 いつもお世話になっております。孫平です。


 みなさんも妻や夫、彼氏や彼女、女性又は男性の上司や部下とのコミュニケーションの中で、この人はなんでこんな言い方をするのだろう?、しっかり伝えたつもりだったのに全然理解してもらえてなかった…

、などといった経験は一度はあると思います。



 今回は、ジョージタウン大学の社会言語学者デボラ・タネン教授の研究をもとに、男女の言語スタイルの違いや、その違いが与える影響についてみていきたいと思います。






言語スタイルとは何か


 まずは、言語スタイルとは何かというところからです。


 

 あまり難しく考える必要はなく、言語スタイルとはつまり、「その人の話し方に表れる特徴的なパターン」のことです。


 

 その中には例えば、直接的に表現するか間接的に表現するかや、相手の話し方や呼吸に合わせること(ペーシング)や、間の取り方(ポージング)、言葉の選択、冗談や例え話、問いかけや謝罪といった要素をどう使うかといったことが含まれます。



 

 私たちが他者とコミュニケーションをとる際も、相手がどんな言語スタイルなのかを探りつつ、その中で自分の主張をどうやって伝えていくか、どのように伝えたら相手から受け入れてもらいやすいかを、特に意識せずとも一瞬一瞬で判断しているはずです。(反応している、という方がしっくりくるでしょうか。)






男女の言語スタイルの違い


 言語学者の間では、あらゆる人間集団において男女の言語スタイルに違いがあることは常識となっています。


 

 例えば、ほとんどの男性が「自然」だと感じるスタイルが、ほとんどの女性には「不自然」に感じられることもあるのです。逆も然りです。



 

 人間は一般的に、子どもから大人へと成長する過程で、仲間との関係の中で言語スタイルを習得していきますが、子ども時代は往々にして同性の仲間と遊ぶ傾向があります。



 アメリカの子どもを対象にして、社会学者、人類学者、心理学者たちが行ったある研究によれば、「男の子も女の子も会話を通じてラポール(信頼関係)を育み、力関係を定めていくが、女の子は人間関係に重きを置いた話し方をする傾向があり、男の子は序列や立場を重視する傾向がある」ことが分かりました。




 

 女の子は一人の親友、もしくは少人数のグループで遊び、長時間おしゃべりをする傾向がある。

 お互いにどれほど親密になれるかを探るために言語を用い、たとえば、秘密を打ち明けた相手と親友になる。

 女の子は、一方が他方より優れていることを誇示するような会話スタイルは採らず、みんな同じだということを示すような話し方をする。

 ほとんどの女子は、子どもの頃から、あまりにも自信たっぷりに話すと友だちの不評を買うことを学ぶ。自分の優位性をちらつかせる相手を遠ざけ、批判する。

 このようにして、女の子は自分のニーズと相手のニーズのバランスを取り、互いの面子を損なわない話し方を学んでいくのである。



 

 上記の内容に共感を覚える女性の方は多いのではないでしょうか。

 

 では、男の子はどうなのかというと、



 

 男子はもっと大勢の、男子中心のグループで遊ぶが、そこでは全員が平等に扱われるわけではない。

 リーダー格の子には、他の子に歩み寄ることよりも、リーダーとしての地位を強調することが期待され、通常、一人またはごく少数がリーダーと見なされる。

 男の子は一般的に、偉そうにしているからといって誰かを非難することはない。リーダーは、序列下位の仲間に指示を与えることを期待されているからだ。

 男子は、能力と知識を示し、他の子に挑戦し、他の子からの挑戦を受けて立つことによって集団の中での地位を固めていくが、そのためにどんな話し方をすればよいかを学んでいく。

 命令することは、集団の中で高い地位を得、それを維持するための一つの話し方である。もう一つの話し方は、物語やジョークを繰り出して仲間の注目を集めることだ。



 

 こちらも、男性の方は共感できるところがあるのではないでしょうか。



 

 まとめると、男性は会話の中に潜む上下関係を決めるパワーダイナミクス(権限の力学)に敏感な傾向があり、自らを他者の上に立たせるような話し方をし、他者が自分を下位に追いやるような話し方に抵抗します。



 一方女性は、関係を築くラポールダイナミクス(親密さの力学)に反応する傾向があり、他者を立てる話し方をし、相手を見下していると取られかねない内容は和らげて表現する傾向があります。



 

 

 もちろん全ての女の子、男の子がこのようなプロセスを経て成長するわけではありません。


 しかし、男子も女子も、子ども時代に仲間と遊ぶ中で自分の会話スタイルの大部分を学んでいくことは確かです。



 その結果、言いたいことをいうのに、女性と男性では異なる方法を身につけているため、男女間の会話はしばしば異文化コミュニケーションのような状態になってしまうのです。






言語スタイルの違いが生む誤解


 このように、子ども時代から学んできた言語スタイルが男女間では全く異なるため、大人になり仕事など同じ環境の中でコミュニケーションとる際に、すれ違いや勘違いや誤解が生まれやすくなるのです。



 ここでは、主に仕事の場面での、男女の言語スタイルの違いが生む影響についてみていきます。




 

男性は「私は」という言葉をよく使う。チーム全体の功績であっても、自分の手柄であるかのように周囲にアピールする。

女性は、明らかに自分の功績であるような場面でも、「私たちは」という表現をする。自己宣伝が過ぎるのを嫌うためである。




・心理学者ローリー・ヘザリントンらの実験では、自分の考えを主張する際、女性は確信があっても控えめに語り、男性は疑念があっても自信ありげに語ることが分かった。ここでも女性は、傲慢と思われたくないという気持ちが表れていた。




・道に迷った時に、男性は女性よりも人に道を尋ねることが少ない。人に質問することは自分が一段引き下がることだと感じるためか、男性は女性よりも、質問することは面目を失うことだという感覚を強く持っている。

また男性は、その裏返しで、質問をする人にもマイナスの評価を下しやすい。




・言語学者のジャネット・ホームズは、女性は男性よりも、褒め言葉を多用することを発見した。

女性はステータスの差を最小限に抑え、みんなが平等に見えるよう心がけ、相手の顔を立てようとする。

男性は自分を高く見せ、低く見られるような言動を避けようとする。




・社会言語学者のデボラ・タネンの調査では、反論の受け止め方には男女差があることが分かった。反論されたとき不快に感じる人は、男性よりも女性の方が圧倒的に多かった。



 


 このような男女の言語スタイルの違いにより、例えば男性の上司と女性の部下、女性の上司と男性の部下とのコミュニケーションで、良しとされる言語スタイルが互いに違うため、すれ違いが生まれる可能性があります。


 また重要な事実として、一般に仕事の世界では、地位が上の者は自分と似ている言語スタイルを持つ部下を厚遇しやすいということがあります。



 そのため、上司と部下の言語スタイルが異なっていた場合、部下は能力や会社への貢献度の割に低い評価を受ける可能性が高くなるのです。



 言語スタイルの違いによって生じる、お互いの違和感や不快感のせいで、部下の本来の実力が正当に評価されないというのは、その部下にとってはもちろん、会社やその評価を下した上司にも後々損害が出てくるでしょう。






最善のコミュニケーションのためにできること


 身も蓋もありませんが、結論をいうと、最善の方法は「ない」です。


 ある話し方がもたらす結果は、その時の状況、企業文化、会話当事者の相対的な地位、言語スタイル、それらのスタイルの相互作用などによって、さまざまに異なるからです。


 ある状況下で、ある人には完璧なコミュニケーションが、別の状況下で別の人に対しては、最悪の結末を招くコミュニケーションになる可能性もあります。





 

 今回は、仕事の場面を想定しているので、やはり組織での影響力をもつ上司(マネジャー)が変わる必要があるでしょう。


 

 マネジャーにとって重要なことは、ここまで述べてきた言語スタイルの仕組みと影響力を認識し、組織に対して本当に価値ある貢献をしてくれる部下の声を正しく汲み取ることです。



 例えば、会議では発言が多い人の方が評価され意見も通りやすいですが、周りがそのうような社員ばかりの中で、「人の話を最後まで聞いてから発言する」という言語スタイルの社員がいたとしたら、間違いなく埋もれますし評価もされないでしょう。


 

 ここで、「発言しないその人がいけない」と言ってしまえばそれまでですが、その人が会社にとって価値ある貢献をしてくれる可能性があったのであれば、その社員やその会議をマネジメントできず、利益を得る機会を損失させたマネジャーの責任になるでしょう。




 繰り返しますが、あらゆる状況に適した万能の方法はありません。


 それでも言語スタイルを理解しているマネジャーは、会議の場面でも、部下に対するメンタリングやキャリア支援を行う場合でも、あるいは人事評価の面談でも、相手や状況に合わせて柔軟に対応することができるでしょう。




 未来の予測が困難になっている今の時代において、さまざまな言語スタイルを持つ社員が活躍できる柔軟性のある組織は、とても強靭です。






【参考文献】

デボラ・タネン『どうして男は、そんな言い方 なんで女は、あんな話し方−男と女の会話スタイル9to5』2001年(講談社)


ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『コミュニケーションの教科書』2018年(ダイヤモンド社)






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