いつもお世話になっております、孫平です。
今回はいつもと趣向を変えて、料理に関する科学的な雑学を紹介していきたいと思います。
テーマは「卵」です。
卵と言えば、みなさんも日常生活で必ずといっていいほど調理したり、食べている食材だと思います。
そんな「卵」に関する、役に立つあるいは全く役に立たない知識をまとめてみました。
それではさっそく参りましょう。
卵の雑学
・卵が楕円形なのはなぜ?
卵は、雌鶏から産卵される直前までは、まん丸の形をしています。
しかし、卵が出てくる場所=雌鶏の総排泄膣はとても狭く、まん丸のままでは出てくることができません。
そこで雌鶏は卵を出すために収縮運動を繰り返し、細くて狭い総排泄膣を通り抜けられるよう、卵を楕円形に変形させるのです。
その結果スムーズに産卵でき、私たちが普段見慣れている「卵」の形でスーパーに並ぶというわけです。
・黄身が2つある卵はどうやってできる?
それは、雌鶏の卵管で卵黄が渋滞したせいです。
卵管では、卵黄はまだ殻に包まれていません。
しかし、卵管を先に進んでいる卵黄のスピードが遅くて、後ろの卵黄が追いついてしまうと、2つの卵黄はその先で1つの殻に包まれてしまいます。
これが、たまに黄身が2つある卵に出くわす理由です。
その雌鶏が良い鶏だからとか悪い鶏だから起こる現象ではありません。
普通の雌鶏にたまに起こる、普通の現象です。
・黄身の黄色加減に差があるのはなぜ?
黄身の色はカロテンによるものです。
カロテンは、鶏が食べる青草や種子、ミミズなどに豊富に含まれています。
農場を自由に歩き回り、カロテンがたっぷり含まれた栄養満点の食物を食べている雌鶏からは、オレンジがかった濃い黄色の黄身ができます。
一方、生涯鶏舎で暮らす雌鶏は、薄い黄色の貧弱な卵を産みます。
つまり、黄身の色の濃さで、その卵が栄養豊富かそうでもないかがある程度判断できるのです。
・水に浮く卵には気を付けて!
卵が水に浮く原因は、「エアポケット」という卵の中にできる空間にあります。
卵は産卵されてから時間が経つほど、中の水分が殻を通って少しずつ蒸発し、卵白が乾燥していきます。
そして、乾燥して少なくなった卵白と殻の空間に空気が入ることで、エアポケットができます。
つまり、水に浮く=エアポケットができている卵は、産卵されてからだいぶ時間が経った古い卵である可能性が高いということです。
・卵は洗うべき?洗わないべき?
鶏はどんな場所でも排泄するため、産み落とされた卵には糞の細菌や、鶏舎の細菌が付いていることは間違いありません。
では、やはり卵は洗った方がいいのかというと、必ずしもそうとは言えません。
実は、卵は産卵される前に雌鶏の体内で、粘りのある液体でコーティングされ、「クチクラ(角皮)」という薄い保護膜が形成されるのです。
この保護膜が細菌の侵入を防いでいるのですが、卵を洗うと保護膜も洗い流すことになります。
卵の殻が細菌の侵入を防いでくれるのでは?と思うかもしれませんが、卵の殻には小さな穴があいていて、そこから細菌は容易に侵入できてしまうのです。(茹で卵を作るときに、卵から小さな気泡が出てくるのは殻に穴があいているからです。)
保護膜を失った卵は、細菌が侵入しやすい穴だらけの状態だと言えるでしょう。
・じゃあやっぱり卵は洗わない方がいいの?
そうですね、結論から言うと洗わなくてOKです。
でも少し冷静になって考えてみて下さい。
卵の内部には細菌が侵入していなくても、私たちが普段触っている卵の外側はどうでしょう。
そう、細菌や雑菌だらけです。
だから、卵に触れた後はしっかりと手を洗うべきです。
そんなの当たり前だろという人もいると思いますが、意外と盲点だったという人もいるのではないでしょうか。
その点から考えると、卵を割ったときに殻の破片が混ざってしまうこともあると思いますが、その後熱を加えるのであればまだ大丈夫ですが、生のまま食べる場合は新しい卵に変えるべきでしょう。
同じように細菌の侵入という点から、少しでもヒビが入ってしまった卵も食材として使用するのは避けて下さい。
・卵は冷蔵庫で保存した方がいいの?
こちらも結論から申し上げると、答えはNOです。
その理由は、先ほど出てきた保護膜と関係があります。
実は卵を冷蔵保存していると、クチクラによって形成された保護膜がもろくなり、細菌が侵入しやすくなってしまうのです。
卵は、スーパーでは常温で並べられているのに、家庭では冷蔵庫で保存されていることが多いのは一体なぜなのでしょう。
今日から卵は常温で保存しましょう。
・卵の茹で加減の目安は?
まずは卵白から。卵白の温度が、
60℃を超えると…
卵白に含まれるタンパク質のひとつである、オボトランスフェリンが凝固し始める。半熟卵としては最高の状態。
70℃前後になると…
しっとり感を残しつつ、固茹での状態となる。
80℃を超えると…
卵白に含まれる別のタンパク質である、オボアルブミンが凝固し始め、卵白が乾燥してくる。ここまでくると加熱し過ぎとなる。
続いて卵黄。卵黄の温度が、
65℃以下だと…
卵黄は液体のまま。卵白は徐々に固まってきているため、半熟卵としては最高の状態。
65℃を超えると…
卵黄に含まれるタンパク質のひとつ、ビテリンがとろりとしてくる。卵白はしっかり固まってくるため、半熟の茹で卵としては最高の状態。
68℃を超えると…
ビテリンが本格的に凝固し始め、固茹での茹で卵になる。
ここでポイントになるのが、「卵白と卵黄では熱が届くまでタイムラグがある」という点です。
卵黄を取り囲んでいる卵白が防御壁になり、加熱による熱エネルギーのほとんどを吸収して、内部の温度を60℃前後に安定させようとするからです。
火をかけて3分ほどで、熱が卵白の防御壁を突破して卵黄まで届いて火が通り始めます。
そこから卵黄が固まるのは速いため、とろっとした半熟の状態を楽しみたいのなら、4分以上茹でないようにしましょう。
・スクランブルエッグやオムレツを上手に作るコツとは?
それは、火にかける15分前に、溶いた卵に塩をひとつまみ入れて混ぜておくことです。
たったこれだけで、卵を火にかけても柔らかくてジューシーで鮮やかな黄色の状態に仕上がります。
なぜそうなるかというと、答えはもちろん塩による効果があるからです。
塩には、タンパク質の分子組織を変性させる働きがあります。
そしてタンパク質が変性すると、加熱してもほとんどねじれなくなり、火はしっかり通っていながら水分の流出が抑えられます。(通常タンパク質は加熱されると、分子組織がねじれて水分が絞り出され、固くてパサパサになります。イメージとしては、雑巾を固く絞ると中の水分も絞り出されて、雑巾がパサパサになるのと同じ感じです。)
また同様の変性により、光をあまり通さなくなるため、加熱しても素材そのものの色を保つことができるのです。
当然、卵にもタンパク質が豊富に含まれているので、このような塩の効果で加熱後の仕上がりに違いが表れるというわけです。
日常的に料理をする人には常識的なことかもしれませんが、初めて知った人は是非試してみて下さい。
・卵白がうまく泡立たない原因は?
それは、脂肪や油が混ざってしまっているからかもしれません。
油の分子は、泡立てられた卵白の気泡を割ってしまうため、油が混ざるとうまく泡立ちません。
油分は卵黄にも含まれているため、メレンゲを作る際は、ほんの少しでも卵黄が混ざらないようにして下さい。
また、卵白を泡立てるボウルや泡立て器にも、油分がついていないかどうかよく確認しましょう。
今回は以上になります。
それではまたお会いしましょう。
【参考文献】
アルテュール・ル・ケンヌ『フランス式おいしい調理科学の雑学』パイ・インターナショナル(2020年)
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