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「社会的証明は諸刃の剣⁉︎」

更新日:2022年4月15日




 いつもお世話になっております。孫平です。



 今回も、「影響力の武器を使う」シリーズです。



 前回お話しした社会的証明ですが、これは使い方を間違えると、望んでいることと逆の現象が起きてしまうという点を、今回はお伝えしたいと思います。






 それでは参りましょう。







社会的証明は諸刃の剣⁉︎


 みんながやっているということが、私たちに強力な影響を与えるのはみなさんご承知の通りだと思います。

 

 しかしその原理は、良い方向にも悪い方向にも働く可能性があるのです。



 つまり、「悪いことをみんながしていますよ」というメッセージを伝えてしまうと、その悪いことをみんながしてしまうということです。



 そしてこういったメッセージの使われ方は、いろんな場面で散見されます。





 ロバート・B・チャルディーニらが提示する例をいくつかみてみましょう。


 

・ポイ捨てをする人がいかに多いか非難して、ポイ捨てをしないように伝えるメッセージ



・病院の待合室で、予約をすっぽかす人がいかに多いかを非難するメッセージ



・政治家たちが、有権者の政治への無関心を嘆くメッセージ

 


 これらのメッセージは、どれも現実を伝えているだけですし、それを作った人が善意によるものなのも間違いないでしょう。


 


 しかしこのような、「悪いことをみんなしています」というネガティブな社会的証明を使ったせいで、それを見た人々の注意は、その行為がいかに悪いかではなく、いかに頻繁に行われているかに向いてしまうのです。









社会的証明の悪影響


 社会的証明のネガティブな効果を知るために、ロバート・B・チャルディーニ、ノア・J・ゴールドスタインらの研究チームが行った実験をみてみましょう。




 これはアメリカアリゾナ州にある化石の森国立公園で行われたもので、ここでは化石木のかけらを持ち出す来訪者が多く、公園の存続が危ぶまれているという現状があります。



 

 まず研究チームは、公園から化石木が盗まれるのを防ぐための看板を2種類用意した。



①多くの来訪者が化石木を持ち出しており、化石の森の環境が変わってしまいました。(化石木を持ち出そうとしている数人の来訪者の写真も載せて)



②公園から化石木を持ち出さないで下さい。化石の森の環境を守るためです。(一人の来訪者が化石木を持ち出そうとしている写真に、化石木を持っている手に🚫マークがついている)



③比較対象のための、どちらの看板も設置しない対照群。





 結果は、③の対照群で盗まれた化石木は2.92%なのに対して、①のネガティブな社会的証明の看板を立てて盗まれた化石木は7.92%と約3倍も多かった


 そして②のただ単に化石木を盗まないように訴えた看板で盗まれた化石木は、1.67%と③の対照群よりやや低い結果になった。

 



 

 また彼らの研究チームが、2012年に実施した研究では、

 

 保健所が、前月の診療予約のすっぽかし件数を目立つところに掲示した場合、翌月のすっぽかし件数に増加傾向が見られた


 しかし掲示内容を変更して、予約を守っている人の数を掲示したところ、予約のすっぽかし率が18%〜31%も低下した

 


 このようにネガティブな社会的証明は、私たちの行動にもネガティブな影響を与えやすくなるのです。








実生活に活かすには


 ここまでみてきたように、好ましくない行動が頻繁に起きているという社会的証明のメッセージが、意図せずに悪影響を及ぼしてしまうことがお分かりいただけたかと思います。




 そのため私たちが社会的証明を使う際は、ネガティブな社会的証明は伝えてはいけません



 そこではどう行動すべきかや、すべきでないのかといった単なる情報のみに、受け手の注目を集める必要があります。


 


 そしてより効果的なのは、好ましい行動をしている人たちのデータに焦点を当てることです。(本来の社会的証明の使い方ですね。)


 大体において、好ましくない行動をしている人はごく少数で、圧倒的多数の人たちはしっかりルールを守っているものです。


 そのため、単純にデータの見方や示し方を変えるだけでも、ごく当たり前だと思っていたことが社会的証明となるケースも多いでしょう。





 例えばよく会社でやりがちなのは、事務書類の提出の遅れや不備を指摘することです。


 しかしこれは裏を返せば、そういう行動をしている社員が多いという社会的証明になっています。


 そのため、そうしたメッセージを受け取った社員の気持ちとしては、「みんなもやってるなら、自分一人ぐらいやったってどうってことはないだろう。」となる可能性が高くなります。



 対策としては、しっかりルールを守って仕事に取り組んでいる多くの社員の行動やデータに焦点を当てて、メッセージを伝えるのが良いと思います。


 そうした社会的証明のメッセージを受け取った社員は、「うわ、みんなやってるのに自分だけやってない。これはまずいからなんとかしなきゃな。」と思うはずです。




 もしみなさんが、会社の中でそうしたメッセージを伝える立場だったり、またそういう立場の人に直言できるのであれば、社会的証明を使ったメッセージの使い方は間違えないように注意して下さい。





 それではまたお会いしましょう。







【参考文献】

N・J・ゴールドスタイン、S・マーティン、R・B・チャルディーニ『影響力の武器実践編 第ニ版』2019年(誠信書房)



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