いつもお世話になっております。孫平です。
さて今回は学習の極意の続きで、「積極的な学習」についてみていきたいと思います。
その前に、私たちの脳の「ニューロン」の性質について触れておきましょう。
ニューロンは私たちの脳の構成要素で、脳内に約860億あると言われています。
私たちが何かを学習すると、ニューロン同士が結合し始めます。それは、鎖と鎖が繋がっていくようなイメージです。
単純で簡単な学習の場合は、ニューロンの鎖の繋がりは短いものになります。
複雑な学習の場合は、鎖の繋がりは長く縦横無尽に絡まり合い、しかも鎖自体が太くなります。ニューロンが、このような強固な繋がり方をしていると、学習したことは長期記憶として残ります。
どちらの状態が、私たちが生きていく上で有益かは言うまでもありませんね。
なぜなら、広範で豊かなニューロンの連鎖が脳内にあれば、テストのような答えのある問題にも、社会で日々直面する答えのない問題にも、様々なヒントを自分の頭の中から自由に引っ張り出して対応できるため、問題の解決がずっと楽になるからです。
では、どうすればそのような複雑且つ強固なニューロンの繋がりを形成できるのか。
その方法が、「積極的な学習」です。
受け身ではなく、積極的に学習しよう
まず初めに、バーバラ・オークレーとオラフ・シーヴェが紹介している、積極的学習のためのテクニックをみてみましょう。
①分からなくても答えを見ずに、自分の力で問題に取り組む。
②読んだ本や新聞、講義の内容を一生懸命思い出して、要点をまとめてみる。
③学習している題材について、自分の疑問をまとめてみる。
④試験本番と同じような環境設定、時間設定をして、試験の予行練習をしてみる。
⑤仲間と一緒に、学習している題材について意見を交わし、議論し、さまざまな手法を比較してみる。
⑥学習している題材についての自分の考えや学んだことを、他の人に説明したり教えてみる。
⑦学習していることの要点を、子どもでも分かるような簡単な言葉に変えて説明してみる。
⑧フラッシュカードを使って、学習していることのジャンルを問わず、ごちゃ混ぜにした問題を作ってみる。
⑨自分で試験の予想問題を作ってみる。
⑩家族や友人、パートナーから問題を出してもらう。
11.日常生活の何気ない場面で、学んでいることの要点を思い出してみる。
このような積極的な学習の核心には、「回収活動」と呼ばれるものが存在しています。
ここでも、先ほどのバーバラ・オークレーとオラフ・シーヴェの説明を引用してみましょう。
回収活動とは、ただ目の前の対象を眺めているだけでなく、自分の記憶から情報を引き出せるなら、それを見たい、あるいは自分の頭でそれを活用したいという活動だ。
「回収する」対象の数が多くなればなるほど、そしてその対象にまつわる一連の文脈を回収する範囲が広くなればなるほど、ニューロンの輪が強くなり、結合する範囲も広くなる。
ニューロンの繋がりが複雑且つ強固になれば、長期記憶として残りやすくなります。
つまり、学習したことを長期記憶の領域へ移行させるための一番の方法は、そのときの学習の記憶から、自力で情報を回収しようと努力することなのです。
回収活動を伴う積極的な学習には、もう一つメリットがあります。
それは、自分が理解できていることと、理解できていないことが明確になる、という点です。
自分の力で、しっかり思い出せることは理解できている可能性が高いですが、思い出せないことはそうではありません。
それが明確になれば、その後の学習で、どの内容の学習を深めていく必要があるのか、またどんな学習方法で進めていけばいいのかといった、学習計画の軌道修正が可能になるのです。
ごちゃ混ぜに学習する
複雑且つ強固なニューロンの繋がりを形成するための、もう一つの重要なテクニックは、異なる概念をごちゃ混ぜに学習することです。
この学習法は、ニューロンの連鎖を広範にするだけでなく、答えを導き出す際に、無数にある連鎖の中から適切な連鎖を素早く選び出す練習にもなります。
通常、教科書や問題集に載っている練習問題は、同じ分野に関する問題が10問ほど続いていることが多いです。
このような学習は、「遮断された学習」と言われます。
つまり、ある特定の概念だけに凝り固まったまま学習し続けることです。
ここまで見てきたことを踏まえると、「遮断された学習」では、複雑且つ強固なニューロンの連鎖の形成は、あまり期待できないと言えます。
では、異なる概念をごちゃ混ぜに学習するにはどうしたらいいのかというと、「積極的な学習のテクニック」であげた項目を実践することで、それが可能になります。
その中でも特に有効なのは、
⑧学習していることをごちゃ混ぜにしたフラッシュカードを自分で作って解く
⑩家族や友人、パートナーから、学習していることの問題をランダムに出してもらう
という学習法でしょうか。
学習とはもちろん勉強だけではなく、人間の活動のあらゆることが学習にあたります。
例えばスポーツ。
テニスについてのある研究では、プレーヤーが異なるスキル(フォアハンド・バックハンド・ボレーなど)を無作為に練習した場合、試合でのプレーが向上することが明らかになっています。
よくあるテニスの練習は、フォアハンドならフォアハンドの練習だけを一定時間行い、それが終わったら次はバックハンドの練習を一定時間行い…、といった具合で進みます。
教科書や問題集の練習問題と全く同じようなやり方で教えているわけですね。
初心者ならそれでもいいのかもしれませんが、そのような「遮断された学習」をいつまでも続けていては、ニューロンがもっと複雑且つ強固に繋がれるチャンスを逃し続けることになります。
もちろんこのような教え方、学習方法はテニスに限った話ではなく、野球でもサッカーでも、芸術の分野でも、または仕事でも、学習が必要な分野には共通して言えることです。
先ほどのテニスの研究の話に戻ると、無作為な練習によって、実戦の中で、どの技を使うべきかという判断がより適切に行えるようになり、同時にそうした技を素早く切り替える技術が身についていたのです。
現在、このような無作為な練習方法は、コーチングの世界で小さな革命を起こしつつあるようです。
まずは、私たちの脳内にあるニューロンの性質を理解した上で、「積極的な学習のテクニック」の中で、できそうな項目から取り組んでみて下さい。
ある程度慣れて、積極的な学習が身に付いてきたら、それはその後のみなさんの人生のあらゆることに応用できます。
そして、みなさんの人生を豊かにしてくれる、一生物の武器になるはずです。
今回はここまでです。
それではまたお会いしましょう。
【参考文献】
バーバラ・オークレー、オラフ・シーヴェ『LEARN LIKE A PRO 学び方の学び方』2021年(アチーブメント出版)
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