top of page

「内向型人間がアディゼロEVO SL WOVENを買ったときの話」

  • 執筆者の写真: 孫平 books&flowers
    孫平 books&flowers
  • 2025年12月7日
  • 読了時間: 5分

先週末、スポーツDEPOに行ったところ、たまたま発売されたばかりのアディゼロEVO SL WOVENを見つけた。


前作のアディゼロEVO SLも持っているが、私にはつま先のゆるさが合わず、一歩走るたびにつま先がシューズの先端にか当たってしまっていた。これは、他の人たちのレビューでも指摘されていることと思う。(しかし私は、このつま先ぶかぶかのアディゼロEVO SLで黒部名水マラソンを走り、見事に足の爪に血豆をつくった)


それでも、このシューズの軽さやスピードに乗れるところ、またノンカーボンで走りやすいところはとても気に入っていたため、新作が出ると聞いて是非履いてみたいと思っていた。



この日は内向型人間の私にとってはラッキーなことに、お客さんはかなり少なめだった。

周りに誰もいないことを確認して、今しかない!と思って、こそこそと泥棒のようにEVO SL WOVENの26cmを手に取った。もちろんアディダスが全面展開している真っ青な駅伝カラーではなく、スポーツDEPO・アルペン限定の白地にブルーラインの方だ。内向型人間が、わざわざ目立つシューズを履くわけがない。(ただ、店舗限定カラーの方も私には爽やか過ぎて、ちょっと履くのが恥ずかしいレベルだったが)


箱を開けて、シューズの中に詰まっているくしゃくしゃの紙を取り出す。もう片方のシューズの紙も取り出していたところ、予期せぬ事態が起きた。

店員だ!シューズ担当の店員とおぼしき女性が私の隣にしゃがみ込み、話しかけるなオーラを出している私に、あろうことか声をかけてきたのだ。


冷静に考えてみればこれは当然の結果と言えるだろう。客がほとんどいない状況で、見るからに押しに弱そうなキモ男が、新作シューズを一人ポツンと試し履きしている。この状況を、営利企業で働く人間が見逃すはずがない。

私は周りに客がいない状況をラッキーだと思っていたが、見事に店側のカモになってしまったのだ。


「このシューズ、新発売なんですよ。是非履いてみて下さい!」

明るく、いかにもスポーツショップの店員という風貌のその女性のオーラがあまりに眩しく、ますます自分が萎縮していくのを感じる。

「ありがとうございます。実は私も前から気になっていて。」

しまった!言葉選びを間違えた!そんなことを言ったら、「あなたのことを前から気になっていた」と受け取られるかもしれないじゃないか。最近付き纏っていたストーカーの正体はあなただったのね!と。


「フィット感が良くなってるんです。今お客さんいないので、そのへんを走ってみても大丈夫ですよ!」

よかった。どうやらストーカー認定は免れたようだ。

「本当だ。前作みたいなつま先のぶかぶか感がなくて、フィット感がめちゃくちゃ良いです。」

「そうですよね!やっぱり前作は少し大きく感じるとおっしゃるお客様がとても多かったんですよね。」

「やっぱりそうですか。……………、もう少し考えてみます。」


内向型人間の私にとってこれ以上のコミュニケーションは無理と判断し、強制シャットダウン。明るい女性店員は、大丈夫ですよ、ゆっくり見ていって下さいね。と笑顔で去っていった。おそらく心の中では、わざわざお前のようなキモ男の相手してやったのに何迷ってんだよ!と思っているに違いなかった。いやいや、接客されたくないのに接客された私の方が被害者なんですけど…。


そんな茶番を妄想しながらも、今実際に履いているEVO SL WOVENの足入れ感覚は非常に心地良いものだった。これなら良いトレーニングができるかもしれない。願わくばもっと地味なカラーの方がいいのだが、別のカラーが発売されるのは当分先の話だろう。それを待っていてはこの冬にトレーニングが積めなくなる。私は決心した。


EVO SL WOVENの26cmをカゴに入れた。そうしてレジに向かおうとくるりと後ろを振り返ったとき、私の目にとんでもない光景が飛び込んできた。

なんと、あの女性店員が満面の笑みを湛えながら私に近付いてきたのだ。そうか、ストーカーは私ではなく彼女の方だったのか。使い古されたどんでん返しのパターンだが、映画で観るのと実際に被害者になるのとでは、その衝撃度は全く違う。私は蛇に睨まれた蛙のごとく、その場から一歩も動けなくなった。



「購入することにしたんですね。良いと思います!」

「ええ…、まぁ…。」

見えない尻尾が巻き付いているのか、喉元が締め付けられてうまく声が出せない。

「これ、EVO SL WOVENを購入して下さった方にお配りしているノベルティなので、是非どうぞ!」

女性店員はそう言うと、カゴの中にノベルティのマルチバッグを入れた。


「このあとも、ゆっくりお買い物していって下さいね!」

微笑みながら立ち去っていく女性店員。彼女が見えなくなった途端、金縛りのように固まっていた身体が突然動くようになった。一気に恐怖が押し寄せ鳥肌が立つ。私は足早にレジへと向かった。

先ほどまで感じた、何者かに見られている気配はいつの間にかなくなっていた。ふと周りを見渡すと、ブラックフライデー最終日らしく、店内は多くの客で賑わっていた。


最初はガラガラだったのに、いつの間にあんなにたくさんの客が来たんだ?私はパラレルワールドに行っていたのか?

あの女性店員はだれなんだ?本当に実在する人間だったのか?


帰り道の運転中、私は先ほどの出来事を振り返っていた。しかし、考えれば考えるほど頭の中は混乱した。

もういい、忘れることにしよう。


自宅に着き、レジ袋を留めているテープを剥がし、EVO SL WOVENを取り出す。もう一つ、ノベルティのマルチバッグを取り出そうとしたとき、バッグの表面に何かが付いていることに気がついた。

そこには、ライトブラウンの長い髪の毛が一本くっついていた。それを見た瞬間、私は全てを悟った。同時に、背後から強烈な視線を感じた。

(そうか、やっぱり君はストーカーだったんだね。)

目を瞑り心の中でそう呟くと、耳元で、小さいが明るい女性の声が聞こえた気がした。

(EVO SL WOVENは、前作のようなバウンス感は控えめですが、その分接地感が良く、安定性も向上しましたよ!走れば実感できると思いますが、前作とは別物のシューズと捉えた方がいいかもしれませんね。)

我ながら気持ち悪いが、今ではそのときの出来事が、私の大切な思い出となっている。


ありがとう、ストーカーの店員さん…。



※内向型人間のただの脳内妄想です。店員さんから親身に相談に乗ってもらったことで、EVO SL WOVENという素晴らしいシューズに出会うことができました。本当に感謝しております。

コメント


bottom of page