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「ストレスの力①」

更新日:2022年4月11日




 いつもお世話になっております。孫平です。


 今回は、ストレスについてのお話です。


 皆さんは「ストレス」に対して、どんなイメージを持っていますか。おそらく、心身に悪いもの、できれば避けたいもの、という印象があるのではないでしょうか。


 これは、半分正解で半分間違っています。



 その理由について、これから見ていきたいと思います。

 







ストレスの解釈を変えると…


 ストレスが体に悪いというのは本当なのでしょうか。


 結論から言えば、「ストレスの解釈の仕方によって、その人がストレスから受ける影響は異なる」ということになります。




 

 ハーバード・ビジネス・スクール教授のアリソン・ウッド・ブルックスが、数百名の人に対して、「ストレスを感じたとき、どのように対処するべきか」という質問をしました。

 その結果、なんと91%の人が「心を落ち着かせること」だと答えました。


 私もそうですが、多くの人はそのように考えていると思います。つまり、それがストレス対処の常識のように考えられているのでしょう。


 しかし、果たして「心を落ち着かせること」は、ストレス対処の最善の方法なのでしょうか。






 

 ここで、ロチェスター大学の心理学者ジェレミー・ジェイミソンの研究を紹介したいと思います。



 

 大学院進学適正試験(GRE)を控えた大学生を対象に、2つのグループに分けて実験を行った。


 1つは、普通に試験を受けるグループ。そしてもう1つは、次のようなマインドセット介入を行ったグループ。



「多くの人は試験を受けるとき、不安になりストレスを感じてしまうと自分の実力が十分に発揮できないと思っています。ところが最近の研究では、ストレスを感じるとテストの結果が悪くなるどころか、むしろ良くなることが分かっています。つまり、この試験を受けるにあたって不安を感じている人の方が、成績は良くなるはずです。ですから、今不安な気持ちを抱えていたとしても何も心配する必要はありません。ストレスのおかげでうまくいきそうだ、と思えばいいのです。」




 結果は、マインドセット介入によってストレスを受け入れ、解釈を変えたグループの方が、テストで高得点をとった。



※学生たちのもともとの学力にはほとんど差はなかった。また学生たちは無作為にグループ分けされていた。



※テスト後に学生たちの唾液を採取し、ストレスホルモンの数値を測定した。(マインドセット介入を受けたグループの学生は、心が落ち着いてストレスも減ったのかを確かめるため。)結果は、どちらのグループの学生も、高いストレス反応を示していた。


 


 どちらのグループの学生も強いストレスを感じていたにもかかわらず、マインドセット介入(ストレスの解釈を変え、ストレスを受け入れられるようなメッセージ)を受けた学生は、普通にテストを受けた学生よりも高得点をとったのです。



 

 この研究から分かるのは、私たちの心身に影響を与える重要な要素は「ストレスの量ではなく、そのストレスをどう捉え解釈するか」ということです。


 

 これから皆さんはストレスを感じたとき、「ストレスは体に良くないから、なんとかして鎮めなきゃ。」と考えるのではなく、「自分の体は今、最高のパフォーマンスを発揮しようと興奮しているんだ。心臓がドキドキするのは、全身の筋肉と脳に血を送って、自分がもっている最大限の力を発揮するためなんだ。そのおかげで、私はきっと上手くやれる。」と考えるようにして下さい。




 

 ちなみに先ほどの研究には続きがありまして、ストレスに対するマインドセット介入を受けた学生たちは、その後3ヶ月以上経ってもテストで高得点をとり、普通にテストを受けた学生たちとの差がさらに広がっていたそうです。


 

 「ストレスは良いもので、決して自分を妨げるものではない」という考え方が一度身に付けば、その効果はストレスを感じるたびに発揮される可能性があります。

 私たちには、そんな素晴らしい力が備わっているのです。こんなの利用しない手はありません。





 ここで挙げたストレスの力はほんの一例です。

 

 その他にも、ストレスを肯定的に捉えるだけで、意志力、集中力、自制心、自信、チャレンジ精神、忍耐力、他者への思いやりや優しさ、逆境からの回復力(レジリエンス)が高まることが分かっています。


 これらが高まれば、私たちの仕事やプライベートが上手くいくことは容易に想像できます。




 また、ストレスを肯定的に捉えると、



・スポーツ選手は良い成績を出しやすい


・アーティスト、ミュージシャンは良い作品をつくりやすい


・パイロットは正確な操縦をしやすい


・外科医は手術の成功率が高くなる


・退職率が低くなる


・健康で長生きしやすくなる




ということも分かっています。


 とにかく、「ストレスは良いもの」だと考えるようにすれば、めちゃくちゃメリットが得られるわけですね。








ストレスが欠乏すると…


 ストレスそれ自体は決して有害なものではありません。ストレスを感じたときに、ネガティブな感情をもってしまった結果、心身に悪い影響が出るのです。だから、ストレスに対する考え方を変えていきましょう、というのがここまでの話でした。



 

 では、(おそらく皆さんがこのブログを読むまでは憧れていたであろう)ストレスフリーな生活を送っていると、人間はどうなるのでしょうか。




 

 ある大規模な疫学調査では、自分の生活に対して「退屈」だと答えた中高年の男性たちは、その後20年間に心臓発作で死亡するリスクが、2倍以上高くなることが分かりました。




 


 また、ギャラップ社が2005年〜2006年に世界121カ国、12万5000人の15歳以上の人びとを対象に行った世論調査では、ひとつの質問を投げかけました。



「あなたは昨日、大きなストレスを感じましたか?」




 結果は、ストレス度指数が高い国ほど、平均寿命が長く、GDP(国内総生産)も高く、さらに幸福度や人生に対する満足度も高かったのです。


 一方、ストレス度指数が低い国には、貧困や飢餓、汚職や暴力がある傾向が見られました。




 また、ギャラップ世論調査では、育児をしている人のストレス度指数は高いが笑うことも多い、といったことや、前日に大きなストレスを感じたと答えた起業家は、同じ日に興味深いことを学べた、と答えていることも分かりました。

 そのようなことが、人生の充実感に繋がっていることは言うまでもないでしょう。





 アメリカ合衆国退役軍人省が、カリフォルニア州パロアルトで実施した大規模な実験では、1,000人以上の成人を10年にわたって追跡調査しました。

 参加者たちは初めに、「ストレスにどのように対処しているか?」と質問されました。

 これに「ストレスはできるだけ避ける」と答えた人たちは、その後の10年間で、うつ病になった確率が高かったのです。

 それだけでなく、職場や家庭での争いごとも多く、失業や離婚を経験した確率も高かったのです。





 私たちは、できるだけストレスの少ない生活を送りたいと思っていますが、実際にストレスフリーな生活を送っている人たちの幸福度は、意外にも高くないことが明らかになっているのです。(退職後にうつ病を発症するリスクが40%高まるのは、実は自分の力になっていたストレスがなくなってしまったからなのでしょう。)




 



 結論を言うと、ストレスは私たちにとってなくてはならないということです。


 まぁ、よほどのことがない限り、私たちは多かれ少なかれストレスを感じることはあるでしょう。そこから逃れることはできないでしょうし、逃れる必要もありません。



 何度も言いますが重要なのは、「ストレスは良いもの」だと考えることです。今回のハイライトはそこに尽きます。




 そしてもう一つ、効果的な方法があります。




 それは、自分が感じたそのストレスに「意味を見出すこと」です。



 これは、自分の人生に生きがいをもつのに非常に効果があると言われています。

 自分の人生に生きがいをもてたら、当然、人生の満足度も幸福度も高くなるでしょう。




 次回は、「ストレスに意味を見出す」ための具体的な方法について、お話したいと思います。


 それではまたお会いしましょう。





【参考文献】

ケリー・マクゴニガル『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』大和書房(2015年)







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